Ark

ランペルージ兄妹が行方不明となってから３日。

ミレイはただぼんやりとクラブハウスに立っていた。
今は授業があっているころだろう。しかし、授業に参加するような気分ではなかった。祖父も、何も言わなかった。

生活感溢れるままに放置されていたその場所に、主達の姿は無い。
リヴァルやスザクを筆頭とした生徒会メンバーは、きっと２人がすぐ帰ってくると信じている。

しかし、もう戻ってくることは有り得ないのだと、ミレイは理解していた。
なぜなら、もう、此処は。

じわり、と目が熱くなる。

ユーフェミア・リ・ブリタニアによって宣言された「行政特区日本」。
その宣言は「学園祭宣言」と別称で呼ばれるほど、このアッシュフォード学園で為されたことは有名になっていた。

―――有名に、なってしまった。

今やアッシュフォード学園はメディアの注目の的で、その名前が話題に出ないことは滅多にないくらいだ。
ただでさえ、枢木スザクが通っている学園としての注目を浴びていた。
ここぞとばかりにマスコミ達は連日押しかけてくる。

両親や他の親族達は喜んでいたようだが、ミレイと祖父ルーベンはその事実に絶望を感じた。
此処はもう主達にとって安息の地どころか束の間の箱庭にすらなることはできない！

もう、戻ってくることなんて、有り得ない…！

２人が住んでいたクラブハウスにいれば、無意識に主達の残像が視界に映り、まるでまだ此処にいるかのようで。
しかし同時に、もういないのだということも、思い知らされて。

今までそれでも、確かに笑っていたのに。
此処で、この狭い箱庭の中で、それでも「楽しい」と言ってくれたのに！
信じて、くれていたのに…！

主たちの気が少しでも紛れるように、いろんなイベントをした。
突拍子も無い行事の数々に主は呆れていたけど、それでも結局は苦笑してそれを甘受してくれた。

できることなんて限られていたけれど、主が喜んでくれるのが嬉しかった。
笑顔を見るたびに、とても誇らしかった。

でも、そんな日々は終わりを告げてしまった。

枢木スザク？―――貴方がそれで喜ぶのなら、受け入れてみせましょう。
婚約？―――ええ、貴方を護ることに繋がるならば、相手がどんな男でも耐えてみせましょう。

だから、どうか、お傍に。

言の葉となる前に砕け散った願いは、もうきっと、叶うことはない。
アッシュフォードは、もう“切り捨てられた”のだ。
幼い日からずっと、『騎士』になりたいと、なれずとも護り抜こうと、そう決めていたのに。

もう―――戻らない。

私の主。私の宝物。私の聖域。私の楽園。私の誇り。私の命。私の、私の、私の――！

ねえ、何故変わってしまったの？在りし日々を奪ったのは――誰。

ちらりとミレイは目に暗い炎を覗かせる。
そう、奪ったのは。

その視線の先には、裏切りの騎士の名を冠すKMFのパイロットであり、その名に相応しくミレイの主を裏切った、枢木スザクがいるであろう教室が映っていた。

 


（アッシュフォード(はこにわをかたるおり)の中の主達に手を差し出して、まさか２人を助けられる救世主(おごれるむのうなかみ)にでもなったつもりなの？）