× [PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。 (―――“起きて、しまった”) 朝、眠りから覚めた僕の胸によぎったのは、この言葉だった。 そう、“普通”――― 今ライがいる客間も普通の部屋だった。 なのに、どうしてこんなに違和感を覚えるのか。 借りた部屋だからとかそういう理由じゃない。 そんなことを考えるのは明らかに“異常”だ。 どうして、ここは暗い■■じゃないんだろう。 ―――どうして、僕は目覚めているんだろう。
「!」 扉を叩く軽い音が、そのまま何処かへ沈んでしまいそうになった僕の意識を浮上させた。 「ライさま、朝食の用意ができました」 咄嗟に返事を返し、気付く。 そうだ、ここは『クラブハウス』。 「……そう、か」 きっと、この違和感は人の家に泊まったせいだ。 薄々気付いてたのかもしれない。
それを聞いてから僕はぱん、と軽く頬を叩き、気持ちを切り替える。 クラブハウスの内部構造は一通り説明してもらっているため、迷うことなくリビングへと向かう。 そしてリビングのドアを開けて――― 「咲世子さん?もうナナリーを連れてき―――ッ誰だ!?」 ……知らない人がいた。 ぼんやり考えていると、その人は僕の前に歩いてきて、胸倉を掴みあげて言った。 「一体何が目的だ…!あの子に手を出したりしたら、ただで済むと思うな!!」 黒髪にアメジストのように深い紫の瞳を持つ僕と同じくらいの年頃だろう少年。 じっと彼を観察し、推測を立てる僕の態度をどうとったのか。 「だんまりか?まあいい…言わせれば済むことだ。さあ、俺の質問に答え―――」 彼の瞳が紅く染まったかのように見えた瞬間、ナナリーの声が聞こえた。 瞳の色は、紫色のままだった。さっきのは、目の錯覚だったのだろうか。 咲世子さんに車椅子を押され、ナナリーがリビングへと入ってくる。 「それで、ナナリー。すまないが、俺はちょっとやることがあるから、朝食は先に―――」 僕もナナリーの方へ一歩近づき、挨拶をする。 「おはようございます、ライさん。よく眠れましたか?」 ……沈黙。 「あー…その……す、すまない」 僕には非は無いと思うのに、思わず謝ってしまった。なんだか今にもナナリーのお兄さんに殺されそうだ。 「いいか、何処の馬の骨かは知らんが、ナナリーはやらんからな!」 それは僕が聞きたい。 「ルルーシュ様、ライ様は記憶喪失なのです。それで、ミレイ様からこちらで世話をするように頼まれまして」 流石に困ってしまった僕を見かねたのか、咲世子さんが助け舟を出してくれた。 「そうか、勘違いしてすまなかったな。俺はルルーシュ・ランペルージ。ナナリーの兄だ。よろしくな」 ぎこちないながらも返事を返すと、ナナリーは「よかったです!」と笑う。 「お前がナナリー達の優しさにつけこんで何をしようとしてるかは知らないが、そうそう上手く事が運ぶと思うなよ…? ルルーシュはものすごく低い、それこそ魔王のような声音で囁くと、何事もなかったかのような顔をして僕を追い越し、テーブルへと向かう。 思わず固まっていた僕は、頭を抱えて天を(というか天井を)仰いだ。 しかし現実から逃げても何も変わりはしない。 PR 深い闇の中をたゆたう。 ただ僕は、眠り続ける。 そして、どこにもない■■の代わりに、僕がずっと覚えていなければならない記録。 ただ、闇の中で眠り続ける。
(こんな。こんなことを、望んでいたわけじゃない…) 望まなかったモノを与えられ、望んだモノを奪われ。 (やめろ、やめてくれ) 『■■で発見されたこれはおそらく■■■■と同種の者の■■■だと思われます』 ただ、これ以上誰かを■■ことなく、眠りたかっただけなのに。 無理矢理に“与えられた”変化。 (やめろ) 欲しいのは■じゃない。 新たな■■でもない。 (―――だめだ) そうだ。 『え、本当に■に干渉しちゃっていいんですか?』 (やめろ―――!)
ノイズが奔る。 そして―――
急に意識が浮上し、覚醒へと導かれる。 「…ここ、は」 自分がいる場所はいわば普通だった。 さらに自分は拘束されているわけでもなく、ただベッドに寝かされているだけのようだ。 (でも、なんでこんなところに…) 例え武器をもっていなくとも、危害を加えられたわけではないといっても(加える気は別に無かったが)、 しかし、それは歓迎すべき事だろう。 体を起こし、立ち上がる。そしてドアから出ようとした、その時。 「あら、もう起きてたの?体の具合はどうかしら?」 意識を失う前に見た、金髪の女性が部屋へと入ってきた。 「僕を此処に連れてきてくれたのは君みたいだな。ありがとう、おかげで大分よくなった」 彼女はそう明るく言って、軽くウィンクしてみせた。 「私はミレイ。ミレイ・アッシュフォードよ。今は貴方が倒れてからだいたい1時間、ってところかしら?」 なお無言である僕の態度をどう受け取ったのか、ミレイさんは車椅子の少女の方を見て、「ほら、ナナちゃんも」と促す。 「初めまして。あの、私はナナリー・ランペルージと言います。こちらはメイドさんの咲世子さんです」 にっこり。 笑顔で少女と女性は…訂正。ナナリーと咲世子さんは僕の方を見る。無論ミレイさんもだ。 …先手をとられてしまった。これでは名乗らざるを得ないじゃないか。 「僕は…」 その続きを口にしようとして、目を見開く。 わからな、かった。 何故。だって、おかしい。こんな、―――どうして!?
恐る恐る、といった感じで尋ねてくるミレイさんに、沈黙でもって答える。 「貴方は何人かしら?日本人?それともブリタニア人?もしくは他の…」 ようやく声を返した僕に、ミレイさんは「そうねえ」と悩む。 「…じゃあ。ここはなんて国かしら?」 余計にわけが分からなくなったようだ。 思考が少なからず顔に出ていたのか、ミレイさんはちょっと表情を緩めて苦笑した。 「KMFって何か分かる?」 それからもいくつか質問をして、どうやらミレイさんの中では何か結論が出たようだった。 「多分、記憶喪失の一種ね。自分に関することだけごっそり抜けてるみたいだわ」 それまでずっと黙って僕たちの会話を聞いていたナナリーが、不思議そうに声を返す。 「だって、一般常識とか文化とかに関しては普通以上に答えるのに、ちょっとでもプライベートに触れると駄目なのよ? ミレイさんと咲世子さんはその説で納得したらしい。 「何が大変なのですか?ナナリー様」 ……それもそうだ。 そしてふと、先ほどまで見ていた夢を思い出す。 「…Ramshackle Abiding Ideal V-01」 とっさに思い浮かんだ言葉の頭文字を繋いで答えていた。 「ライさん、ですか。素敵なお名前です」 2人は僕の名前を褒めてくれた。咲世子さんも柔らかく笑っている。 「それじゃあ、本当に世話になった。服は…いつか、必ず返す。ありがとう」 言って、そのまま玄関を探しに行こうとする僕の手を、慌ててミレイさんは掴んだ。 「ちょ、ちょっと待ちなさーい!貴方、何も分からないのに何処にいこうとしてるの!?」 頷こうとしない僕に痺れを切らしたのか、ミレイさんは「いいから、ここに居なさい!」とごり押しする。 「でしたら、クラブハウスに住んだらいかがですか?きっと、楽しいと思います」 ミレイさんはその発言に目を輝かせて、高らかに宣言した。 「ナナちゃんナイスアイディア!それ決定!ライ、貴方はこのクラブハウスで生活しなさい! 決定的だった。 「ちょ、待っ……」 満面の笑みを浮かべて、足取り軽やかにミレイさんは去っていった。 「それじゃあ、明日からライさんも学校に通うんですね!とっても楽しみです!」 ―――もはや、僕に抵抗する術は残っていなかった。 こうして僕は咲世子さんお手製の夕食を頂き、なんだかんだで言いくるめられ、
気が付くと、“僕”は走っていた。 何故走っているのか。 わからない。 何故“走らなければならない”のか。 わからない。 ハッ、ハッ、とまるで獣のように息が弾んでいる。 僕はどのくらい走っていたんだろうか。 僕は“誰か”から逃げているのだろうか。 次々に浮かんでくる疑問。 「―――っ!?」 さらには、警告だとでもいうのか、時折頭に奔るすさまじい痛み。 そろそろ限界が近いことには感づいていた。 ああ、そうだ。 何故そう思ったのかはわからない。けれど確かにそうしなければならないと思ったのだ。 しかし、走る自分の周りを過ぎていくのは見覚えのない風景。 必死に辺りを見回して、大きな建物を見つけた。 それを理解すると、僕は躊躇うことなくその場所へと駆け出した。 大きな門から中に入ると、敷地内には、正面の大きな建物とは別の小さい建物も存在した。 (少しだけでも、休息をとらないと…) 建物まであと少し。無意識に身体が力を抜きかけた瞬間、声が聞こえた。 (人・・・・・っ!?) 咄嗟に近くの茂みに隠れる。 「にしてもビックリよねー。ゼロだっけ?あの格好にもびっくりしたけど、まさか本当に助けちゃうなんてねぇ?」 振り向くと、金髪の女の人と、車椅子に乗った亜麻色の髪の少女が談笑しながら歩いてきていた。 (馬鹿か僕は・・・当然じゃないか、ここに誰も来ないなんて保障は何処にも無かった。 そして、気付かれないままにその場を去ろうとした、その時だった。 「う、ぐ・・・っ」 突然、今までの比ではない激痛が奔る。 (しまった・・・!) 「誰か、いらっしゃるのですか?」 僕がいることに気付き、金髪の女の人が近づいてくる。 (どうする、身体は動きそうにない。どうする!?) 僕の中で何かが突き抜けるような感覚があった。 (違う!!) 咄嗟にその感覚を遮断する。 「ちょっと君、この学園の生徒じゃないわよね? 女の人が何かを言っているのが聞こえた。しかし、どこかその声は遠かった。 「え、ちょっとどうしたのよ!?」 ぷつり、とまるでモニターの画面が途切れるように。 ※ゲーム本編と違って枢木スザク強奪事件当日に脱走し、ミレイさんとナナリーに発見されたことになっています。 |
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